AIで構造設計はなくなるのか?現役構造設計者が考えていること

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はじめに:AIで構造設計はなくなるのか?

AIで構造設計はなくなるのか?

こんにちは、こぞーにゃです。

AI時代の構造設計、楽しみだけどちょっと不安もあるニャ。今回は4工程に分けて、AIに任せる仕事と、人間に残る仕事を整理していくニャ!

最近、ChatGPTやClaude CodeのようなAIツールを実際に触る中で、構造設計の仕事も少しずつ変わっていくのではないかと感じるようになりました。

会社の中でも、議事録の作成、文章の整理、調べもの、簡単なコード作成など、AIを業務に取り入れる流れが少しずつ出てきています。

これまでは「AIは便利な文章作成ツール」くらいに思っていましたが、実際にAIエージェントを触ってみると、単なる文章作成にとどまらず、Excel作業、コード作成、資料整理、チェックリスト化など、実務の一部をかなり補助できることが分かってきました。

そうなると、自然と気になってくるのがこの問いです。

「AIで構造設計の仕事はなくなるのか?」

これは、私自身が最近よく考えているテーマです。そして、おそらく構造設計に関わる人であれば、多くの人が一度は気になるテーマではないでしょうか。

現時点で私が感じているのは、次のようなことです。

構造設計の仕事は、なくならない。

ただし、仕事の中身は確実に変わっていく。

特に、AIエージェントや自動化ツールを実際に触ってみると、計算書の整理、比較表の作成、議事録の要約、図面チェックの補助、簡単な自動化スクリプトの作成といった作業は、今後かなり効率化されていくと感じます。

一方で、構造形式を決めること、計算結果の妥当性を判断すること、意匠・設備・施工者と調整すること、そして最終的に設計者として責任を持つことは、簡単にAIへ置き換えられるものではありません。

この記事では、構造設計の仕事を「基本計画」「基本設計」「実施設計」「工事監理」の4工程に分けて、それぞれの工程でAIに任せやすい作業と、人間に残る仕事を整理していきます。

※この記事は、2026年時点での筆者の実務感覚をもとにした整理です。AIツールの性能や設計実務への導入状況は今後も変化するため、必要に応じて内容を更新していきます。

構造設計の仕事を4工程に分ける

構造設計の4工程
構造設計の4工程:基本計画→基本設計→実施設計→工事監理

AIに任せられる作業を考える前に、まず構造設計の仕事を分解します。構造設計の仕事は、大きく次の4工程に整理できます。

  • 基本計画:構造種別、架構形式、柱スパンなど、建物全体の構造方針を決める工程
  • 基本設計:複数案を比較しながら、柱スパン、架構形式、耐震要素の配置などを具体化する工程
  • 実施設計:構造計算、断面算定、構造図作成、確認申請対応などを行う工程
  • 工事監理:設計図書通りに施工されているかを確認し、現場で発生する課題に対応する工程

それぞれの工程で求められる力は違います。だからこそ、AIで効率化しやすい部分と、人間が判断すべき部分も工程ごとに変わってきます。

工程別|AIに任せやすい作業と人間に残る仕事

AIに任せやすい作業と、人間に残る仕事の対比
AIが得意な領域と、人間に残る判断の領域

各工程でAIに任せやすい作業と、人間が担うべき仕事を整理すると、次のようになります。

工程 AIに任せやすい作業 人間に残る仕事
基本計画 過去事例の整理、構造種別の比較、説明資料の下書き 建築主の意向をくみ取る、構造方針を決める、意匠の考えを構造形式に翻訳する
基本設計 ケーススタディの整理、比較表作成、概算検討、図面整合チェック 採用案の判断、設計ルートの方針決定、意匠・設備との調整
実施設計 計算書整理、断面算定結果の比較、図面チェック補助、質疑回答案、自動化スクリプト作成 モデル化・荷重条件の設定、計算結果の妥当性確認、納まり判断、設計責任
工事監理 検査記録の整理、写真整理、不具合報告書の下書き、チェックリスト作成 現場判断、施工者との協議、施工不能箇所への対応、合否判断

こうして見ると、AIが得意なのは、情報の整理、比較、要約、文章化、自動化です。一方で、人間に残るのは、条件を読み取り、方針を決め、関係者と調整し、最終的に責任を持って判断する部分です。

つまり、AIは構造設計者を置き換えるというよりも、構造設計者の判断を支える道具として使うのが現実的だと考えています。ここから、各工程ごとに少し掘り下げてみます。

基本計画:過去事例の整理はAI、方針決定は人間

基本計画では、建物全体の構造方針を決めます。この段階でAIに任せやすいのは、過去事例の整理や比較です。同じような用途・規模の建物でどの構造種別が採用されているか、S造・RC造・SRC造・木造のメリットとデメリット、免震や制振を採用する場合の説明資料 ── こうした情報整理は、AIと相性が良いです。

ただし、基本計画で本当に重要なのは、情報を集めることではありません。重要なのは、建築主や意匠設計者が本当にやりたいことを読み取り、それを構造計画に翻訳することです。

建築主が「開放的な空間にしたい」と言ったとき、それは柱を減らしたいのか、天井を高くしたいのか、視線を通したいのか、将来のレイアウト変更に対応したいのか ── 言葉の裏にある本当の要望を読み取る必要があります。

AIは過去事例を引いてくるのは得意です。しかし、打合せの空気感を読みながら、相手の意図をくみ取るのは、まだ人間の領域です。

基本設計:ケーススタディはAI、採用案の判断は人間

基本設計では、基本計画で決めた方針をもとに構造計画を具体化します。ここでAIが活躍しやすいのは、ケーススタディの整理です。柱スパンを変えた場合の梁せい、ブレース配置による平面計画への影響、RC造とS造のコスト比較 ── こうした比較のたたき台をつくる作業は、AIでかなり効率化できます。

ただし、最も重要なのは、ケーススタディをたくさん出すことではありません。どの案を採用するかを判断することです。AIが10案出してくれたとしても、構造的に合理的な案が意匠的に受け入れにくいことや、設備ルートに余裕がある案でもコストが上がりすぎることはあります。確認申請や構造計算ルートを考えると、あえて別の案を選ぶ方が現実的なこともあります。

最終的に、どの案がそのプロジェクトにとって一番よいのかを人間が判断する必要があります。ここで必要なのは、単なる計算力ではなく、構造計画力です。

実施設計:AIによる効率化の効果が最も大きい

構造設計の4工程の中で、AIによる効率化の効果が最も大きいのは実施設計だと思います。実施設計では、構造計算、断面算定、計算書作成、構造図作成、確認申請対応、質疑回答など、手数の多い作業が非常に多くなります。計算書テンプレ部分の整理、断面算定結果の比較表作成、図面チェック補助、確認申請の質疑回答ドラフト、自動化スクリプトの作成 ── こうした作業はAIや自動化ツールと相性が良いです。

私自身、これまでExcel VBAやExcel方眼紙で効率化していた作業は、PythonとAIを組み合わせることで、さらに省力化できると感じています。SS7やSNAPなどから出力されたデータを整理し、検定比の大きい部材の抽出、NG部材の一覧化、前回モデルとの差分比較などを自動化していく方向です。

ただし、ここで注意したいのは、AIに断面算定そのものを丸投げするのではないということです。AIに任せやすいのは、結果の整理や比較、チェックの補助。最終的にその断面を採用してよいかどうかは、設計者が判断する必要があります。特に、

  • モデル化の判断(建物をどう解析モデルへ置き換えるか)
  • 荷重条件・境界条件の設定
  • 計算結果の妥当性確認(応力・変形・検定比・偏心率・剛性率の違和感)
  • NG時の力学的な原因分析

は、人間にしかできません。計算ソフトの結果がNGになったときに、「なぜこの値が出たのか」を物理的に説明できるかどうかが、AI時代の構造設計者の差別化ポイントになると思います。

工事監理:記録整理はAI、現場判断は人間

工事監理では、AIは記録整理やチェック補助に使いやすいと思います。配筋写真の整理、配筋チェックの補助、鉄骨製品検査の記録整理、施工図チェックリスト作成、不具合報告書の下書き、検査記録の整理 ── こうした書類仕事は、AIで大きく効率化できます。

ただし、工事監理で重要なのは、書類整理だけではありません。現場では、図面通りにいかないことが必ず起こります。配筋が納まらない、鉄骨の接合部が施工しにくい、設備スリーブが構造部材と干渉している、施工誤差、施主変更 ── こうした場面では、現場の状況を見て、関係者と話しながら判断する必要があります。

「あれ、なんか今日は段取りが悪いな」「この説明、少し引っかかるな」── こうした感覚は、現場経験を積み重ねることで少しずつ身につくものです。AIが写真や記録を整理できても、現場の空気を読み取り、その場で判断する力は、まだ人間の領域だと思います。

2026年時点のAI代替度まとめ

2026年時点のAI代替度まとめ
2026年時点のAI代替度(実施設計が最も大きい)

ここまでの内容を、ざっくり代替度として整理するとこうなります。

工程 AI代替度 人間に残るコア
基本計画 ★★☆☆☆ 建築主との対話・空気読み
基本設計 ★★★☆☆ 採用案の選別判断
実施設計 ★★★★☆ 結果の妥当性チェック・捺印
工事監理 ★★☆☆☆ 現場の感覚・即断・職人との対話

実施設計フェーズが最もAIで効率化しやすく、基本計画と工事監理は人間の判断比重が高い ── これが現時点の私の感覚です。

AIに任せる前に必要な前提

AIを使う前に、人間が前提条件を整える
AIを使う前に、人間が前提条件を整える

ここは構造実務ラボとして強調したいポイントです。AIに任せるには、前提条件を人間が整理する必要があります。

AIに任せる前に整える前提条件

  • 建物用途
  • 構造種別
  • 設計ルート
  • 荷重条件
  • 支点条件
  • 材料強度
  • 使用する基準
  • 許容する変形や応力度

これらが曖昧なままAIに聞いても、もっともらしいが危険な答えが返ってきます。

AI時代に重要なのは、答えを出す力だけでなく、問いを正しく設定する力です。問いの設定を誤ると、どれだけ性能の高いAIを使っても出力は使い物になりません。逆に問いさえ整っていれば、AIは設計者の手数を何倍にも増やしてくれます。

「捺印」とは、構造設計者が責任を持つこと

ここは、この記事の中でも特に大事な部分です。構造設計における捺印とは、単に名前を入れることではありません。捺印とは、

  • 荷重条件
  • モデル化
  • 計算結果
  • 図面への反映
  • 施工上の成立性
  • 関係者との調整内容

について、設計者として責任を持つということです。

ソフトがOKを出したから。AIが「問題ありません」と返したから。検定比が1.0未満だったから。── それだけでは、設計者として十分ではありません。

  • その計算結果が、建物の力の流れとして自然なのか。
  • モデル化が実際の建物を適切に表現しているのか。
  • 図面に反映された内容が施工できるのか。
  • 変更があったときに、構造安全性に影響がないのか。

こうしたことを自分の頭で確認したうえで、図面や計算書に責任を持つ。それが、構造設計者にとっての捺印だと思います。

AIは便利な道具です。計算ソフトも強力な道具です。しかし、道具が責任を持つわけではありません。 最後に責任を持つのは設計者です。ここを譲ってしまったら、構造設計者である意味がなくなってしまうと思います。

捺印 = 設計者として責任を持つ行為

計算結果の妥当性、モデル化、図面への反映、施工上の成立性 ── すべてを自分の頭で確認したうえで、印を押す。

私が実務でAIに任せていること、任せないこと

私自身も、AIには次のような作業を任せています。

  • 計算書テンプレ部分の生成
  • 議事録や打合せメモの要約
  • 構造一級建築士の過去問解説の壁打ち
  • 記事ネタの整理と下書き
  • Pythonコードの試作

ただし、いずれも「最終的に自分が読んで判断する」前提です。AIはたたき台を作る道具であって、判断を委ねる相手ではありません。

一方で、AIには任せないと決めていることもあります。

  • 構造種別や架構形式の最終判断
  • 保有水平耐力がNGになったときの原因分析
  • 地震時の応力の流れの解釈
  • 建築主や意匠設計者との重要な方針決定
  • 現場検査での合否判断

AIに相談することはあっても、判断を委ねることはしない。ここは、設計者として守るべき線引きだと思っています。

AIで空いた時間を何に使うか

AIで空いた時間を何に使うか
判断力/対話力/道具の習熟へ投資する

AIによって作業時間が短くなったとして、その時間を何に使うか ── ここが、長期的にはかなり重要です。単に楽をするだけなら一時的には便利ですが、AIで空いた時間を何に投資するかによって、数年後の差はかなり大きくなると思います。

私は、空いた時間を主に次の3つに使いたいと考えています。

  • 構造の判断力を磨く:過去案件の図面や計算書を見返して、「なぜこの柱位置か」「なぜこの梁せいか」「なぜここに耐震要素を配置したか」を考える時間に使う。
  • 専門外との対話力を磨く:意匠・設備・施工者・建築主と、構造の考え方を伝わる言葉で説明し、相手の要望を構造的な言葉に翻訳する力を伸ばす。
  • 新しい道具に慣れる:Python、AI、BIM、振動解析などのツールに親しむ。ただし、自分でゼロからコードを書くより、AIに正しく指示を出し、出てきたコードを読んで判断する力にシフトしていく。

AIで作れるものはAIに作らせる。自分は、その道具をどう使うか、何を検証すべきかを考える。この方向にシフトしていきたいです。

まとめ:AIを恐れず、頼りきらず

AIを恐れず、頼りきらず、道具として使いこなす
AIを恐れず、頼りきらず、道具として使いこなす

AIで構造設計がなくなるかどうか。この問いに対する私の答えは、構造設計者はなくならない。ただし、作業者としての構造設計者は厳しくなる、ということです。

計算書をまとめるだけ、ソフトに入力するだけ、指摘に定型文で回答するだけ、比較表を作るだけ、議事録を整理するだけ ── こうした作業は、今後どんどんAIに補助されていきます。一方で、

  • 何を検討すべきかを決める力
  • 前提条件を整理する力
  • 計算結果の違和感に気づく力
  • 応力の流れを読む力
  • 意匠・設備・施工者と対話する力
  • 現場で状況を判断する力
  • 設計者として責任を持って判断する力

これらを持つ構造設計者の価値は、むしろ上がっていくと思います。

AIは、構造設計者を不要にするものではありません。むしろ、構造設計者が本来向き合うべき仕事に集中するための道具だと思います。計算書を整える時間を減らして構造計画を考える時間を増やす。議事録をまとめる時間を減らして関係者と対話する時間を増やす。単純な集計作業を減らして計算結果の妥当性を確認する時間を増やす。

そう考えると、AIは怖いものというより、使い方次第で構造設計者の価値を高める道具になります。ただし、AIに頼りきってはいけません。AIが出した答えをそのまま信じる、前提条件を確認しない、計算結果の意味を考えない、責任ある判断までAIに委ねる ── こうなってしまうと、構造設計者としての力はむしろ落ちていきます。

AIを恐れすぎず、頼りきりすぎず。構造設計者として、自分の判断力を磨きながら、AIを道具として使いこなしていきたいです。

AI時代に必要なのは、AIに仕事を奪われないように逃げることではなく、AIに任せる仕事と、自分が責任を持つ仕事を切り分けることだと思います。

AIに作業を渡すほど、自分の判断の質が問われるようになるニャ。手を動かす時間より、考える時間が増えていくはずだニャ。一緒に磨いていこうニャ!